王様の庭

033_帰った後で(Side L)

Gilry&Antique ‰Ô‚ÆŽG‰Ý‚Ì‘fÞW

離れる距離

王様を乗せたバスが見えない場所に行く。
泣かないって決めたから、涙を零すことがないと思っていた。
そもそも、感情表現が薄い私が泣くなんてことはないと思っていた。
今回、不思議と涙を零したのは私のほうだった。

彼の乗ったバスをタクシーの中から見送って。
タクシーは私の家へと鼻先を向ける。
タクシーの中では必死に我慢していたが、降りた瞬間、涙が零れ落ちていた。
意外にも、私も寂しかったらしい。

家に帰ってシャワーを浴びている最中、神様は本当にずるいと思った。
私が今の住んでいる場所に引っ越してから7年。
王様が東京においていた拠点まで、タクシー2メーターの距離だったのに。
私に出会って2週間で、王様は地方に拠点を移したのだ。
タクシー2メータの距離から、車で7時間の距離へ。
もう少し、出会うのが早ければ。
もう少し、たくさん会えたのに。
でもそうしたらきっと、私は今の生活を1年も続けることはできないだろうから、これでよかったかもしれない。

それにしても、遠い。
だから、1か月に一回しか会えない。
…そのくらいでいいじゃないかと自分に言い聞かせる。
私にとって仕事は生き甲斐だし。
私は稼がなければならない。

近くにいたら、もっと恋に落ちるだろう。
近くにいたら、もっと一緒にいたいと願うだろう。
今はそれはできない。
気持ちだけで動く程の若さはない。
向こう見ずさもない。

それでも、また会えるから。
お弁当箱を洗いながら、自分の口から出たその言葉が。
自分でも本当に意外だった。

まだ、私にもそういう人らしい「感情」があることが。

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